大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和25年(う)290号 判決

被告人

佐野繁雄

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用(国選弁護人辻丸勇次に支給した分)は被告人の負担とする。

理由

弁護人赤司友輔の控訴趣意第二点について。

(イ)  記録によると、被告人に対する起訴状記載の公訴事実中第十八において、犯行の日時の記載を欠いていること、原審第一回公判期日の被告人が在廷する公判廷において検察官が起訴状朗読の後、裁判長の間に対して、右犯行の日時は昭和二十三年十二月十三日頃の早朝であると釈明した旨の記載があることは所論のとおりである。

しかし、犯罪の日時は特定の場合を除く外罪となるべき事実ではなくただ起訴状に記載される訴因を明示するために罪となるべき事実を特定する手段方法として犯罪の場所、方法と同様に、できる限りこれが記載を要求されているにすぎないから、たまたま起訴状に犯罪の日時の記載を欠いたからといつてこれがために起訴の効力に影響を及ぼすということはできない。前段の論旨は理由がない。

(ロ)  つぎに、犯罪の日時の記載を欠いだ起訴状について、これを明確にすることは、ただ罪となるべき事実を特定する手段方法を更に追加し訴因を一層明示するまでのことであつて、勿論訴因の追加又は変更でもなく、況んや訴因又は罰条の追加撤回又は変更でさえも裁判所は被告人が在廷する公判廷においては口頭でこれをすることを許すことができると規定している刑事訴訟規則第二百九条第五項の法意からいつても、所論のように必ずしも書面によることなく裁判所は被告人が在廷している公判廷においては検察官に対し口頭によつて犯罪の日時を釈明することを許すことができるものと解するのが相当である。されば冐頭掲記のとおり被告人の在廷している公判廷で検察官に対し犯罪の日時を口頭で釈明させた原審の訴訟手続は正当であつて何等違法の点はない。後段の論旨も採ることができない。

(弁護人赤司友輔の控訴趣意)

第二点

原判決は左の点に於て不法に公訴を受理し又は訴訟手続に法令の違反が存する。本件の起訴状起訴事実第十八には

「被告人村上実雄、同村上正太郎、同佐野繁雄、同小林澄男は共謀して同市明治町三丁目自転車商堤広吉方で同人所有の自転車中古二台同新車二台リヤカータイヤ一本(時価五万円相当)を窃取し」

と記載せられ、行為の年月日の記載を欠くところ、之に照応するものと思われる原判決理由第四の項には

「被告人小林、同佐野、同村上実雄、同村上正太郎四名は共謀の上昭和二十三年十二月十三日頃同市明治町三丁目堤広吉方で同人所有の自転車四台リヤカークイヤ一本(時価約五万円相当)を窃取し、」

と記載せられ、右の点に関し原審第一回公判調書(五〇丁裏)には

「検察官は裁判長の問に対して、公訴事実第十八の犯行の日時は昭和二十三年十二月十三日頃の早朝である旨釈明した。」と記載されている。起訴状における此の点の不記載は起訴状を不適法ならしめる、それは(い)起訴状の罰条記載の誤に関する規定(刑訴二五六条四項)と対照し、(ろ)被告人に送達された起訴状謄本の効力の関係を考えるときは明かである。若し又之が補正を許さるるとしてもその手続は書面によるべきものであつて、上掲のような釈明の記載で許容さるべきものではない。然るに此の点を看過し前掲のような認定をした原判決は不法に公訴を受理し又は訴訟手続に法令の違反があり判決に影響を及ぼすこと明かなものである。右は刑事訴訟法第三百七十八条第二号又は第三百七十九条に該当する。

以上の理由により刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決破棄の御判決を求める。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例